Cyber Lily Diary

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クラウドセキュリティエンジニアが語ります。

リトアニア(EU)の対露制裁と、報復措置としてのロシアによるサイバー攻撃

リトアニアでは非常事態体制が9月中旬まで延長

東欧のバルト三国の一つであるリトアニアでは、国家としての非常事態体制が2022年9月15日まで延長される運びとなるようです。

www.lrt.lt2022年2月24日に導入されて以来、この非常事態体制が延長されるのは初めてではありません。下記の2022年3月10日の記事では、非常事態体制が2022年4月21日まで延長される旨が報道されています。

www.lrt.lt

そもそもリトアニアとは?

リトアニアは国全体でも国民が300万人に満たない小さな国です。この数字は、日本で言うと、京都府広島県の県民数と同じくらいです。

にも関わらず、旧ソ連構成国でもあったリトアニアは、国として明確な反ロシアを掲げることで、ヨーロッパの中でも一際強い存在感の創出を試みています。

下記はロシア=ウクライナ紛争の最中の2022年4月初旬、テレ東のキャスターが同国の首相に対して実施したインタビューの動画です。観てみると、対応してくれたシモニテ首相の受け答えからは、飄々とした口調とロジカルな発言内容からクールで知的な印象を受けます。一方で、言葉の節々からロシアに対する嫌味が滲み出ています。イギリスの文化的影響を強く受けて育った方なのかな?などと勘ぐってしまいました。

www.youtube.com日本人とは全く異なる視点で、かつバルト三国という独特な立ち位置の人間の本音が垣間見えて面白く、内容も非常に示唆に富んでいるため、ぜひ日本の皆さんにも観て頂きたいです。

リトアニア(というよりEU)による対露追加制裁

そんなリトアニアですが、つい先日、同国内を通過するロシアの飛び地であるカリーニングラード州と接続する鉄道貨物輸送の制限という、思い切った施策に出たようです。

news.yahoo.co.jp「ええっ、広島県程度のちっさい国なのに、そんなことをしちゃって大丈夫なのかい!?」と思いましたが、リトアニア政府の言い分としては下記のようです。

リトアニア政府は「追加の制限を加えたわけではなく、EUの制裁を適用しただけだ」と説明。

う、うん、なるほど…?リトアニアという単一の国家ではなくEUとしてのアクションだから、仮にロシアが報復してきたとしても、今度はEU全体が敵に回ることになるぞ、だからリトアニアへの直接的な報復は無い。そういうロジックですな…?

リトアニアがこのような思い切った施策に乗り出せる背景には、いち早くからロシア依存からの脱却に向けて手を打ち、そして成果を挙げているという事情があります。その最たる例として、2022年4月時点で、リトアニアはロシアからの天然ガスの輸入を完全停止しています。国家の規模が違うとはいえ、ロシアへの天然ガス依存で苦しんでいるドイツ・イタリア・ハンガリー等とは正反対です。

www.nikkei.com

確かに2022年6月末時点で、リトアニアに対するロシアからの目立った軍事的・経済的な報復措置に関する情報は見当たりません。リトアニアは小国とはいえNATO加盟国ですから、大国ロシアと言えど迂闊に殴りかかることはできません。

…とは言っても、どうせ「目に見えないあっちの世界」ではバチバチやってるんでしょ?というのが、本記事の原点になります。

目に見えないところでロシアによる報復措置は実行されている

色々と現地メディアを徘徊してみると、やはり、結構激しくヤッちまってるようです。

www.lrt.ltロシア系列と見られる"Killnet"というハッカーグループが、リトアニアに対する報復措置としてDDoS攻撃を宣言したようです。リトアニア国内の、日本で言うところのe-Taxのようなシステムや、空港、鉄道などのいくつかのITシステムで混乱が起きているようですが、今のところ重大なインシデントには発展せず、一過性のイベントとなったようです。

翌日には、リトアニアe-Taxがダウンしたのはサイバー攻撃とは直接的な関係はなかったよー、という記事が出ています。

www.lrt.lt

“It was a technical network failure that was not directly related to the attack. The attack did take place, but it was not serious, and the failure was due to a network fault,”

なるほどなるほど、「確かにサイバー攻撃はあったけど、そんなに深刻じゃなかったよ。サイバー攻撃とは直接は関係のないネットワーク障害によるものだったよ」と…。

っていやいや、それはそれでどうなんじゃい、と突っ込みたくなりますが、まぁそれは置いといて。

リトアニア防衛大臣 Arvydas Anušauskas のコメント

下記はリトアニア防衛大臣が同サイバー攻撃に関して言及した内容を報道した記事です。

www.lrt.ltインタビューの中で防衛大臣は、単純なDDoS攻撃だけでなく、企業の顧客データを狙ったランサムウェアを用いたサイバー攻撃の可能性に言及しています。また同国の国立サイバーセキュリティセンターも、公的機関に対する攻撃から民間企業に対する攻撃に徐々にトレンドがシフトしていることに対して警鐘を鳴らしています。

おわりに

対露制裁に参加している日本にとって、対岸の火事とは言えません。日本のニュースを見ていると、どうも「いやー、別にアメリカみたいにジャベリン提供している訳でもないし、日本は大丈夫っしょ」みたいな温度感の人が大多数らしく、日本だなぁ…と感じてしまいます。

おまけ

カリーニングラード州へ接続する貨物鉄道に対するリトアニアによる制限とそれに対するロシアによる報復措置に関する最新の動向に関しては、下記からキャッチアップしていくことができます。

www.lrt.lt